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あなたの冷凍食品、実は劣化してるかも?冷凍庫の開け閉め、温度管理の重要性

2025年9月21日

まとめ買いしたお肉や魚、作り置きのおかず、そして市販の冷凍食品。私たちの食生活に欠かせない冷凍保存ですが、「冷凍庫に入れておけば長期間、品質は変わらない」と思っていませんか?

実は、家庭の冷凍庫では、私たちが知らないうちに温度の上がり下がりが繰り返されており、それが食品の風味や食感を損なう大きな原因になっているのです。

今回は、冷凍食品の専門家である西川剛史提供の温度データを交えながら、なぜ冷凍庫の温度上昇が食品の劣化を招くのか、そのメカニズムと、美味しさを守るために最も重要なポイントについて詳しく解説します。大切な冷凍食材を最後まで美味しく食べるための「冷凍の新常識」、ぜひチェックしてみてください。


冷凍食品がまずくなる犯人、「霜」と「冷凍焼け」の深刻な関係

(画像:冷凍パプリカの霜/出典:いますぐ食べたい!冷凍食品の本/自由国民社,2022年12月20日発行)
(画像:マグロの冷凍焼け/出典:いますぐ食べたい!冷凍食品の本/自由国民社,2022年12月20日発行)

冷凍庫から取り出した冷凍野菜に霜がびっしりついていたり、冷凍肉や冷凍魚介類の色が変わってしまっていたり。この残念な現象こそ、冷凍庫内の温度上昇によって引き起こされる食品劣化のサイン、「」と「冷凍焼け」です。

この現象は、食品中の氷がとけることなく、直接水蒸気に変わる「昇華」という現象から始まります。

  1. 温度上昇:冷凍庫内の温度が上がると、食品内部の氷の粒が昇華し、水分が水蒸気となって食品の外へ抜け出します。
  2. 温度低下:そして、再び庫内温度が下がると、行き場を失った水蒸気は、食品の表面やパッケージの内側で再び氷の結晶に戻ります。

これが「霜」の正体です。つまり、霜がたくさんついている食品は、それだけ食品内部の水分が外へ逃げ出してしまったという証拠なのです。

 

水分が失われると、食感はパサパサになってしまいます。さらに、水分が抜けて乾燥した部分は空気に触れやすくなり、食品に含まれる脂質が酸化して嫌な臭いを発生させたり(油焼け)、たんぱく質が変性して固くなったりします。この状態が、風味も食感も著しく損なわれた「冷凍焼け」と呼ばれるものです。

冷凍保存で最も重要なのは、「いかに低い温度を一定に保ち、水分を食品内部に閉じ込め、長く冷凍保存ができるか」。しかし、私たちの家庭用冷凍庫には、この理想を脅かす2つの大きな落とし穴が存在します。


品質劣化を招く、避けられない2つの温度上昇

家庭の冷凍庫は、常に-18℃以下を保っているわけではありません。実は、構造上どうしても温度が上がってしまうタイミングが2つあります。

1. 冷凍庫の宿命:自動霜取り機能「デフロスト」

現在の家庭用冷凍庫の多くは、冷却器に付着する霜を自動で取り除く「デフロスト(霜取り)」という機能が搭載されています。冷却器に霜がつきすぎると、冷気の循環が悪くなり冷却効率が著しく低下するため、これは冷凍庫の性能を維持するために不可欠な機能です。

しかし、このデフロスト運転中は、霜を溶かすためにヒーターなどで一時的に庫内の温度を上げてしまいます。

下のグラフは、デフロスト機能による冷凍庫内の温度変化を測定したものです。

(デフロスト冷凍庫庫内温度変化/データ提供:西川剛史)

上記の温度データは、家庭用冷蔵庫の冷凍室内の温度を継続的に測定しました。そして、温度測定中は冷凍室の扉を一度も開けず、閉めっぱなしの状態で測定しています。

通常時は細かい温度上下が発生していますが、これは冷気の流入を細かくONとOFFを繰り返すことで、冷凍室内を一定の温度で維持するためで、問題ではありません。

しかし、通常-18℃以下に保たれている温度が、デフロスト運転中には-11℃近くまで上昇しているのがわかります。この温度上昇は1日に1〜2回、私たちが知らないうちに行われています。1回の影響は小さくても、これが毎日繰り返されることで、食品の水分は少しずつ失われ、長期保存するほど劣化が着実に進行してしまうのです。

上記のデータでは-11℃付近まで上昇しましたが、冷蔵庫の機種や古い製品によってはさらにもっと高い温度に到達してる可能性があります。また、このデフロスト時に扉を開ければ、さらにもっと激しい温度上昇を発生させてしまいます。

2. 日常の習慣:「扉の開閉」による急激な温度変化

もう一つの、そしてより深刻な原因が、日常的に行う「扉の開け閉め」です。冷凍庫の扉を開けると、暖かい部屋の空気が一気に冷凍庫内へ流れ込みます。

こちらのグラフは、扉の開閉による温度変化を示したものです。

(扉開閉時の冷凍庫庫内温度変化/データ提供:西川剛史)

15秒扉を開けた場合は温度は-13℃近くまで上昇し、元の-18℃以下に戻るまでには約2分かかりました。30秒扉を開けた場合は温度は-10℃近くまで上昇し、元の-18℃以下に戻るまでには約5分かかりました。さらに1分も扉を開けた場合は、温度は-8℃近くまで急上昇し、元の-18℃以下に戻るまでには約13分とかなりの時間がかかっています。しかもこれは冷凍庫内が-18℃以下にしっかり冷えていて、1回の開閉のみの場合の結果です。これがスタートの庫内温度が高い状態、さらには複数回の扉の開閉があった場合は、さらなる温度の急上昇が起こり、そこから-18℃以下に戻るまでにはさらに長時間かかる可能性があります。

この温度上昇は、食品の温度を直接的に上げるだけでなく、庫内に大量の湿気(水蒸気)を持ち込むことになります。この湿気が新たな霜の原因となり、デフロスト運転と相まって、さらなる品質劣化を加速させる悪循環を生むのです。

このようなことから、扉を開ける時間は10秒以内に抑えることが、おすすめになります。扉を開けたときには、秒数を意識して欲しいですね。


美味しさを守る鍵は「扉」にあり!今日からできる2つの基本対策

冷凍庫の宿命であるデフロスト運転を私たちが止めることはできません。しかし、もう一つの大きな原因である「扉の開閉」によるダメージは、意識と工夫次第で最小限に抑えることが可能です。

対策1:冷凍庫を開ける「頻度」を減らす

まず大切なのは、むやみに扉を開けないこと。1日に何度も開閉を繰り返せば、その都度、食品は温度変化のダメージを受けることになります。

  • ●取り出すものをまとめておく: 調理を始める前に、その日使う冷凍食材をイメージし、一度の開閉で全て取り出す習慣をつけましょう。
  • ●在庫リストを作る: 冷凍庫の扉に小さなホワイトボードを貼り、中に入っているものを書き出しておくのも有効です。またはスマホのメモアプリに記入しておいても良いです。何があるかを開けずに確認できるため、「何かないかな?」という目的のない開閉を防げます。

対策2:冷凍庫を開けている「時間」を短くする

開ける回数を減らすことと同じくらい重要なのが、一回あたりの開閉時間をいかに短くするかです。「あれ、どこにしまったかな?」と探す時間は、食品にとって大きなストレスになります。

  • ●冷凍庫内を整理整頓する:肉類、魚類、野菜、調理済み品など、種類ごとに場所を決める「定位置管理」を心がけましょう。どこに何があるか定位置化することで、すぐに取り出すことができます。さらには、冷凍食品や自分で冷凍した食材は「立てて」収納することで、まるで本棚から本を取り出すように、目的の食材を瞬時に見つけられます。
  • ●パッケージや中身が見えるように: 冷凍食品は他の袋に移し替えずにパッケージのまま保存する方が、わかりやすくて良いです。さらに自分で食材を冷凍するときには、透明な保存袋に入れてください。中身が視覚的にすぐにわかることで、取り出すかどうかの判断が瞬時にできます。
  • ●月に1回、整理する:毎月1回必ず冷凍庫内を整理しましょう。しばらく放置されている使いかけの食材や、いつ購入またはいつ冷凍したかわからないような食材は早めに料理に使って消費しましょう。不要なものが多いと、冷凍庫内の整理整頓を妨げてしまいます。

これらの整理術は、結果的に食品を探す時間を短縮し、扉の解放時間を最小限に抑えるため効果的です。


まとめ

今回は、家庭の冷凍庫で起こる品質劣化のメカニズムとその対策について解説しました。

  • 冷凍庫の温度上昇が「霜」と「冷凍焼け」を生み、食品の味と食感を損なう。
  • 原因は避けられない「デフロスト」と、コントロール可能な「扉の開閉」。
  • 美味しさを守る最大の秘訣は、冷凍庫内を整理し、「開ける頻度と時間」を最小限にすること。

少しの工夫で、冷凍庫は食材の美味しさを長持ちさせてくれる頼もしい味方になります。「てまぬきごはん」をさらに充実させるためにも、ぜひ今日から冷凍庫の「扉」を意識してみてください。

冷凍庫内の低い温度をキープするテクニックは他にもたくさんありますが、それはまた別の記事でご紹介したいと思います。

記事の監修者

西川 剛史
西川 剛史冷凍王子/冷凍生活アドバイザー
高校生のころから冷凍食品に興味を持ち、冷凍食品会社に就職。冷凍食品の商品開発などの経験を生かし、現在は冷凍専門家として活動中。 冷凍王子としてテレビ番組「マツコの知らない世界」「ヒルナンデス!」「王様のブランチ」「NHKごごナマ」など、その他テレビ、雑誌などに多数出演。
2016年8月には家庭での冷凍テクニックを理論的に体系的に学べる資格講座として「冷凍生活アドバイザー養成講座」を開講(運営 日本野菜ソムリエ協会)。冷凍テクニックをまとめた冷凍本のシリーズ累計発行部数は30万部を突破。
年間約1,000品の冷凍食品を試食し、累計1万品以上の冷凍食品を実食している。さらには全国の冷凍食品工場を累計80ヶ所以上を回る、冷凍食品工場マニアでもある。その経験を活かし、冷凍食品コンサルタントとして活動。
常に冷凍を切り口に新しい活動や事業を積極的に行っている。
プロフィール詳細はこちら(https://vefroty.co.jp/profile/)